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たなべりょうへいの言葉

ブログ

Vol.113「日が長くなる」


 大分、日が長くなってきた。

 

 ちょっと、うれしい。

 

 朝の5時、白んだ空が、

 周りを目覚めさせる。

 

『ねぇ~、明日お父さんの

 お仕事が終わったら、

 テニス一緒に出来る?』

 

 前夜、就寝前の子供が、

 独り言のように呟く。

 

「いいよっ、明日雨降らな

 かったら、一緒にやろうねぇ..」

 

 父は、頬杖付いて、

 子の背中を擦って囁く。

 

 子供は、眼を閉じたまま、頷く。

 

 診療が終わり、気付けば、

 もう午後7時前。

 

 冬なら、もうとっくに真っ暗。

 

 でも、外は、まだ明るい。

 

 自宅の我が子に電話。

 直ぐに声が飛び込んでくる。

 

『宿題も終わったよ!

 明日の時間割もした!』

 

『今から、出来る?大丈夫?

 お仕事終わったの?!?』

 

「ラケット持っといで!」

 

『直ぐ行く!!!』

 

 時間にすれば、僅か

 30分程の我が子との戯れ。

 

 一生懸命、ボールを追い駆ける。

 走ってボールを取に行く。

 

「上手くなったなぁあ~」

 

 流れる汗も拭わず、

 満面の笑みで応える子。

 

『ねぇ!明日も出来る?!』

 

 真っ直ぐ、私を見上げる眼差し。

 日が長くなった。

 

 すごく、嬉しい。

 

  お天道様に

  ありがとう。

  感謝します。

 

Vol.112「お兄ちゃんの分も」


『先生、これ、お兄ちゃんの』

 

『お兄ちゃんのも、買って来たの』

 

 その女の子の家には、

 たくさんのおもちゃが

 飾ってある。

 

 すべて、同じものが、

 色違いで2つずつある。

 

 女の子のお兄ちゃんは、

 小学校に上がる前に、

 病魔と闘った。

 

 小さな身体で、幾度と無く、

 入院し、頑張った。

 

 けれど、ランドセルを持つ前に、

 天国へと旅立った。

 

 妹は、両親から

「お兄ちゃんは、あのお空の

 向うにいるのよ」

「いつも、あなたを見ているのよ」

 と告げられた。

 

 だから、毎日、お空に向かって、

『おはよ~!』

『おやすみなさい』と

 元気にご挨拶する。

 

 お母さん、お父さんと

 お出かけして、買い物する時、

『これも..これ、お兄ちゃんの分』

 と、必ず、その子は、お母さんに、

 ニッコリ手渡す。

 

 人は、出会ったら、いつか

 別れる時が訪れる。

 

 色々な「別れ」が

 あるかも知れない。

 

 お兄ちゃんが天国に召された時、

 お父さんもお母さんも

 妹も、お別れを告げた。

 

 でも、その子は、私の手を引いて、

 お兄ちゃんと自分との

 大切なたからもの達を

 見せてくれる。

 

 その傍らで、お母さんは、

 言葉無く、微笑む。

 

 お別れしても、

「さよなら」では、

 ない気がする。

 

 愛する家族との別れは、

 その受け止め方は、

 ひと様々なのかも知れない。

 

 私を見上げ、

『これ、お兄ちゃんの..』

 の一言に、

 私は、正直、切なくなる。

 

 でも、とてもいとおしく、

 胸が熱くなる。

 

 シアワセな気持ちが、

 何故か沸き起こる。

 

 たとえ、短い人生であっても、

 お兄ちゃんは、

 このお母さん・お父さんを

 選んで来た事を

 とてもシアワセであると

 思っていると感じる。

 

 妹がいる事も、

 とても喜んでいると思う。

 

「いいねぇ~、お兄ちゃんと

 お揃いで..」と、

 私は、その小さな手を握り返す。

 

「また、来て、k~い?」

 と尋ねると、

『うん、いいよ~!』

 といつも言ってくれる。

 

 ありがとう。

 あなたに、感謝。

 

Vol.111「歯医者さん」


 私のクリニックの隣に

 歯医者さんがある。

 

 いとこである。

 

 私は、中学生の頃まで、

 虫歯が一本も無かった。

 

 学校医の先生から誉められた。

 

 だから、胸張って、

 歯見せて笑ってた。

 

 隣の歯医者に遊びに行っても、

 治療で通った事なんて、

 小学生の頃、夕食のおかずの

 魚の骨が口の中に刺さって、

 取って貰った以外、記憶に無い。

 

 ところが、成人して時折、

 冷たいものが歯にしみる

 事があった。

 

 すっ~と、悩んだ末、

 意を決して、いとこに診て貰った。

 

  元来、私は、

  ちょ~痛がり&怖がり。

 

 診察台に座るなり、昨日から

 決めていたセリフを一言。

 

「何でも、正直に言って!

 覚悟は出来てるけん!!」

 

 口を開けて、眼はしっかりと

 見開いて、覗き込む彼を凝視。

 

『う~ん?!』と、彼が

 マスクの中から重た~い発言。

 

 すかさず、私は身を起こし、

 よだれが垂れてもお構いなく、

「『う~ん?!』って、なに??

 ど・どっど~ゆう意味???」

 

 彼から無言のお返事。

 

『なるほど~?う~ん!?』と

 追撃発言。

 

「ちょ・ちょっ・ちょっ~と、

 待ってぇ~!

『なるほど~?う~ん!?』

 ってぇえ!?!」

 

 興奮のあまり、照明に頭を

 ぶつける被害者?、

 いや、患者の私。

 

 結局、大事には至らず、

 ちゃんと治療して貰って

 一件落着。

 

 その短い帰り道..。

 

「患者様にもっと、もっ~と、

 やさしくしなきゃ」と固く決意。

 

 治って、感謝・感謝!

 

 でも、最近、また痛い..。

 

Vol.110「列離れ二匹の蟻引返す」


 当然の悲報。

 

 こころ整理出来ぬまま、

 深夜に逢いに行った。

 

 頑固で、堅実で、

 真っ直ぐな人であった。

 

 床に臥すその顔は、

 生前の凛とした面持ちとは

 違い、とても柔らかで、

 やさしい寝顔だった。

 


 苦学して、学問を究め、

 医師の道を志した。

 

 学生時代には、剣道で

 日本一の栄光を手にした。

 

 文才にも恵まれ、

 俳人としても著名。

 

 正に文武両道。

 

 卒寿を迎えた晩年に

 訪れた人生の終焉。

 

 ある日、当然、天高く

 旅立ってしまった。

 

 私は、じっと静かに

 そのお顔を覗き込む。

 

 戸惑い・寄り添う家族・

 親族とは、異なり、

 その安らかで、柔和な面持ちは、

 自らの最期を己一人が

 悟っていたかのようであった。

 

 傍らに、走り書きの最期の句。

 

 「列離れ二匹の蟻引返す」

 

 仲睦まじく寄り添い

 会っていたご夫婦。

 

 激動の時代を

 乗り越えて来た人生。

 

 私は、幾度となく、

 こころで読み返した。

 

 離れられなかった。

 

 床の間に掛かる一句が

 私を見ていた。

 

「天界に虹あり 人に夢のあり」